2019年11月28日付の香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、「人民解放軍海軍(PLAN)は、4隻目(国産3番艦)の空母は製造するが、5隻目(国産4番艦)以降の空母建造計画は保留中」と報じました。
中国海軍は5隻とも6隻ともいわれる空母を建造する計画とみられていましたが、ここへ来て、空母の建造を一時凍結するのは経済的事情や技術的問題が原因になっているとみられます。
具体的にはどのような状況なのでしょう。
就役したばかりの中国海軍2隻目の空母「山東」
中国海軍の空母整備状況
遼寧(001型)
空母「遼寧」
ソ連のアドミラル・クズネツォフ級航空母艦「ヴァリャーグ」の未完成の艦体を中国がウクライナから購入し、中国初の空母として完成させた空母、艦番号は16
2012就役
中国海軍としては練習空母としての位置づけ、北海艦隊所属(青島)
通常動力艦、スキージャンプ方式(カタパルトは無し)
基準排水量 53,000t
全長305m
最大速力30kt
搭載機数は50機~55機、
・J-15 18~24機
・Y-7またはYak-44をベースにした早期警戒機4機
・Ka-28PL対潜ヘリコプター6~8機
・Ka-28PS対潜ヘリコプター2機
・その他Z-8、Z-9(汎用ヘリコプター)等
中国海軍の空母遼寧が、西太平洋で初めて艦載機の離発着を伴う訓練を実施
山東(国産1番艦:旧001A)
艤装中の山東
中国初の国産空母、艦番号は17
2019年12月17日、正式就役と同時に002型航空母艦「山東」と発表された。
南海艦隊所属
通常動力艦、スキージャンプ方式(カタパルトは無し)
基準排水量 55,000t
全長315m
最大速力31kt
搭載機数は50機~55機、
・J-15 32~36機
・Z-9 2機
J-15を24~30機搭載とし、回転翼機を16機程度搭載との推測もある。
中国初の国産空母「山東」就役で保有空母2隻に、搭載機はあるのか
国産空母2番艦(遼寧)
上海で建造中、スキージャンプ式
基準排水量 58,500t
満載排水量 67,500t
全長 305m
全幅 38m(飛行甲板72m)
速力 30kt
搭載機数
J-15×18~24機
Ka-28対潜ヘリ×6
Ka-31早期警戒ヘリ×4
Z-9C救難ヘリ×2
国産空母3番艦
大連で2021から建造中
国産空母4番艦
今回、建造計画が当面凍結と報じられたもので
原子力推進、電磁カタパルトが装備されるのではないかと注目されていた。
国産4番艦以降の計画凍結は経済的、技術的問題?
中国経済の減速による予算不足
米中貿易戦争による影響や、中国の過大な投資による大企業や政府系企業の度重なる破綻や(日本国内ではあまり報道されていないようです)
来年の中国の経済成長は6%は無理だなどという見積もりを示している人もいますが、漏れ伝わってくる中国の状況から想像するに、実際は3%も成長していないんじゃないかと思います。
だって中国の経済統計って、どう考えても実態とかけ離れているように見えますし、年度が替わって即座に、あの大きな国全体の経済データが出てくること自体がおかしいです。
そもそも最初から、予定の数字があって、それに合わせて発表しているだけじゃないかと推測している人もいます。
いずれにしろ、中国がこれまでのように湯水のように軍事予算を増やすことは困難になってきている可能性は多いにあります。
しかも、そもそも空母単体を持っていても何の役にも立ちません
空母に搭載する戦闘機や哨戒ヘリ、空母を護衛するイージス艦や対潜艦艇、潜水艦など
空母機動部隊を建設、維持、運用する為には米海軍を見ても分かるように莫大な費用を要します。
また、ただいたずらに空母を建設しても、空母運用にかかる周辺の装備の準備や技術が追いついていなかったりすれば宝の持ち腐れ、軍事費の無駄遣いになってしまいます。
原子力空母を建造するための技術的ハードル
米国の原子力空母
中国は5隻目の空母については原子力空母+電磁カタパルトを予定していたようですが
各種報道によれば原子力空母の建造については、「中国には空母に必要な原子力技術がない」状態で、原子力空母化は断念せざるを得ない状況のようです。
ここでちょっと問題になるのは、中国は3番艦以降、カタパルト方式を目指しているようですが
米海軍が使用しているような蒸気式カタパルトは短期間に多数の航空機を発艦させるためには、大量の蒸気が必要です。
原子力空母であれば、大量のスチームを原子力機関のスチームタービンから流用することが容易ですが、通常動力型の空母で、どのように蒸気を確保するのか、ちょっと考えると無理じゃない?という気がします。
となれば、3番艦、4番艦もスキージャンプ方式にせざるを得ないのか、それとも、何らかの技術を開発して通常動力艦で蒸気式カタパルト方式を使うのか、あるいはその他の方法を使うのか不明です。
また、電磁カタパルトにしても、米海軍でも、最新鋭のジェラルド・R・フォード級航空母艦に採用したばかりの最新技術でカタパルト運用の経験のない中国海軍に、開発能力があるのかという疑問がある上に
電磁カタパルトは原子力や統合電気推進など消費電力を賄える発電能力を持つ電源が必要とされることからも、中国海軍としては開発を続けるにしても、実現には原子力空母の建造が前提条件になるのではないかと思います。
そもそも搭載出来る艦載戦闘機がない
J-15
中国海軍が現用の遼寧(1番艦)で搭載しているのはJ-15ですが、米海軍が今後空母で搭載するであろうF-35Cに比べて1世代古い戦闘機ですし
そもそもJ-15はロシア軍の艦載機Su-33の試作機をウクライナから、がめてきてコピーして作った艦上戦闘機です。
完成前の試作機をさらにコピペしたものですから、様々な不具合があるようで、訓練中に多数機が事故で失われています。
その他考えられる艦載機としてはJ-31またはJ-20の艦載型が考えられます。
J-31
J-31は西側のF-35と形状が酷似しており、例によってパクったのではないかとの噂もありますが、実際の所は分かりません。
当初は艦載機として用いるなどの観測もありましたが、中国の発表としては輸出用の戦闘機とされています。
いずれにしろ開発段階の航空機ですから、艦載機として転用するにしてもまだまだ先の話になります。
J-20
J-20については量産が最近開始された機体ですが、艦載機仕様ではないことから
空母に搭載するためには艦載仕様に改修する必要があり
特に機体が長すぎることから全長を短くしたり、エンジンに塩害対策を施すなど大規模な改修が必要であり、空母の艦載機として現時点で使用することはできません。
つまり、現時点においては搭載出来る艦載戦闘機には、かなり問題を抱えているJ-15しかなく、空母を作っても載せられるまともな艦載戦闘機がないということになります。
まとめ
中国海軍のここ10年の勢い、増強は目を見張るものがありました。
わずか10年前にはまだ中国海軍は、沿岸海軍と言われ、日中中間線を出てくるのでさえおっかなびっくりであったものが、倍々ゲームで軍事費を増加させ2015年頃には海自の戦力を越えたと言われたばかりなのに
空母を6隻まで整備する状況となって、この先いったいどうなることかと考えられていたのが、ここに来て中国海軍の増強にも陰りが見えてきたようです。
この先、中国海軍の一方的な増強がさらに続くのか予断は許しませんが、ここに来てようやく中国海軍にも予算的、技術的な制約が出てきたのかもしれません。
2022.1追記
現時点においても中国の5番艦以降の空母建造については、新しい情報はありません。
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