昨年(2017)末、自衛隊がF-35Bの保有を検討しているとの報道がなされました。
緊張が高まっている南西諸島などの空自の戦闘機が離着陸出来ない短い滑走路の空港での離発着を可能にし
将来的にはいずも型のヘリ搭載護衛艦を改修してF-35Bを搭載出来るようにしようとするものです。
これらは一体どういうことなのか、そしてF-35Bが導入されるとしたら海上自衛隊と航空自衛隊のどちらが保有して運用するのか
野次馬的に情報収集、分析してみました。
追記:2018.11にいずもの空母化について防衛計画の大綱に盛り込むことを検討しているいる旨、防衛大臣からの発言が有り記事を追加しています。
いずも空母化、F-35Bは海自、空自どちらが保有するのか、パイロットは
F-35Bとは
F-35B
F-35にはA、B、Cの3タイプあります。
F-35Aは空軍仕様
F-35Bは米海兵隊が強襲揚陸艦などに搭載して使用することを想定した、短距離離陸や垂直離着陸が可能なタイプ
F-35Cは大型の空母などに搭載することを想定した、艦載タイプです。
F-35は第5世代の最新鋭戦闘機で、レーダーに映りにくいステルス性能を持った戦闘機で
航空自衛隊ではF-35Aの導入が行われていて、3月には三沢に最初の飛行隊が配置されることになっています。
取り敢えず、旧式のF-4戦闘機の代替として42機を取得する計画で、今後F-15などの代替機としてさらに多数のF-35Aを購入するものと予想されています。
今回の報道の内容は、この最初に取得するF-35A、42機のうちの一部をF-35Bにするか、あるいは別途購入するか検討するというものです。
F-35A(航空自衛隊HPから引用)
F-35CはF-35Aと同様、通常型の戦闘機で、飛行甲板が長く、カタパルトが装備されている大型の空母に搭載するタイプですから
海自のいずも型などのヘリ搭載型護衛艦を改修して、F-35Cを搭載することは困難です。
F-35Bであれば、いずも型の甲板を耐熱仕様にして艦首をスキージャンプ形状に改修することで搭載が可能になります。
武器や燃料をたくさん搭載している離陸時は滑走してスキージャンプなどを利用して離陸し、武装を搭載していない場合や武器燃料が少なくなったなどには垂直離着陸が可能になります。
滑走路の短い南西諸島での運用は現実的か
報道によれば、将来は、いずも、かがなどのヘリ搭載型護衛艦を改修して搭載することも検討するが、当面は滑走路の短い南西諸島などでの使用を想定しているとしています。
ですが果たして実戦場面を想定した場合、このような運用方法は現実的なのでしょうか
短い距離で離着陸が出来ると言われると、あちこちの離島が、滑走路として使えるような気がしますが
実戦で南西諸島の空港を使うとすれば、燃料搭載を別にしても、弾薬の補給や、最低限の整備作業が必要になってきます。
となれば、それなりの設備
弾薬庫、格納庫(整備場)、掩体壕
燃料搭載車、武器運搬車
整備員などの隊舎や付属施設
有事を考えれば基地を守るための隊員や装備
空襲やミサイル攻撃に備えた対空兵器
なども整備する必要が出てきます。
確かに、滑走路を延長する工事などに比べれば、短時間で航空基地の設定が出来るようになるとも考えられますが
わざわざF-35Bを導入しなくても
南西諸島には2,000m級の滑走路を持つ島はいくつかありますから、これらの空港を軍用に使えるように整備する方がより現実的なような気がします。
つまり、南西諸島の短い滑走路でも使えるようにというのは取って付けたお題目で、実際の所は、ヘリ搭載型護衛艦に搭載しようという方がメインの理由では無いかと思います。
南西諸島にある飛行場(赤丸は滑走路長が2,000m以上)
参考
久米島空港 2,000m
新石垣空港 2,000m
宮古空港 2,000m
下地島空港 3,000m
与那国空港 2,000m
ヘリ搭載型護衛艦「いずも型」
いずも型護衛艦は満載排水量26,000t、全長248mの海自最大の護衛艦です。
いずも 2015年3月就役
かが 2017年3月就役
ヘリコプター14機搭載可能
(運用機数9機)
いずも
かが(いずれも海上自衛隊HPから引用)
F-35B搭載のためには艦首をスキージャンプ形状にするほか、甲板を耐熱使用に回収する必要があると言われていますが
一部の情報によれば、いずも型は、建造時からF-35Bの搭載を視野に建造されていると言われ、艦内の格納庫から甲板に航空機を昇降させるエレベーターなどもF-35Bに対応しており現状のままでも搭載は可能だとするものもあります。
また、F-35Bをいずも型に搭載するとすれば10機程度になるものと思われます。
現状でもF-35Bの離着艦が可能だとすれば、場合によっては4月にも行われるのではないかと噂されている米軍の北朝鮮への先制攻撃が行われた場合
岩国から出撃する米海兵隊のF-35Bが、攻撃からの帰投時に日本海で海自のいずも型護衛艦から燃料補給を受けるなどということが行われる可能性もあります。
F-35Bは海自と空自のどちらが運用(保有)するのでしょう
同じF-35だからといって空自への導入は簡単なのか
航空自衛隊はすでにF-35Aの導入を進めており、今年3月には三沢に最初の飛行隊が配備されます。
同じF-35ですし、報道によれば航空自衛隊が導入中のF-35Aの一部をBタイプに置き換えることも検討されているということからすれば
航空自衛隊に導入されると考えるのが自然なような気もしますが
F-35AとF-35Bでは運用形態が違いますし、教育体系なども異なってきます。
航空自衛隊としても旧式になったF-4のF-35Aへの更新を一刻も早く行いたいでしょうし、今後F-2やF-15の更新も控えています。
F-35Aに加えて、F-35Bを導入することが、多少形態が違う機種を導入する程度だと考えて良いのか、あるいは、ある意味、別の機種を導入することに等しい事なのでしょうか?
F-35Bの着陸(噴射口が下に向いている)
飛行機の操縦で1番難しいのは着陸だと言われています。
離陸してしまえば同じF-35ですからそれほど操縦に大きな違いは無いとは言え、着陸形態が全く違うAタイプとBタイプを同じ飛行隊に配備して
昨日はAタイプで飛行したけれども、今日はBタイプで行こうかなんて事が果たして出来るものか
長い滑走路にアプローチして着陸するAタイプに対してBタイプはヘリコプターのように垂直に着陸する。
混在させれば、飛行感覚が狂ったり錯誤による事故の元です。
運用形態にしても
Aタイプは陸上基地から発進します。
スクランブル待機にでもあたらなければ、自宅から通勤して朝から夕方まで訓練して、夜は自宅へ帰る
一方Bタイプは、艦艇に搭載して2、3週間24時間態勢で揺れる艦内で待機する生活が続くみたいな感じになります。
F-4戦闘機
空自にF-35B専用の飛行隊を作ればどうなる
将来、例えば海上自衛隊が、F-35Bを搭載して作戦するようになればどうなるか
2~4隻の「空母」に搭載する機数は20~40機になります。
通常の防空任務をこなしながら、これだけの機数を、その時だけ派出するというようなことは、無理だと思います。
仮に空自にF-35Bの専用の飛行隊を作るとすれば
1個飛行隊20機前後として予備なども含めれば、現在航空自衛隊の保有している13個飛行隊のうち2個飛行隊は艦載用のF-35Bにあてる必要があり
陸上の防空戦闘機隊はかなり手薄になる事になります。
2個飛行隊を追加で増設となれば、空自としても喜ばしいこと?なのでしょうが、果たして予算や人員増を財務省が認めるものなのか疑問が残ります。
海自P-1哨戒機
海自にF-35B専用の飛行隊を作ればどうなる
海自にF-35Bの飛行隊を作ればどうなるのでしょう
航空自衛隊同様、予算や人員増は難しいでしょうから、現在の部隊のスクラップアンドビルドになるのでしょう。
P-3Cの固定翼飛行隊、SH-60の回転翼飛行隊それぞれ1つづつ潰して2個飛行隊を増設という形も考えられます。
F-35Bのパイロット養成はどうする
空自のパイロットであればF-35A同様、戦闘機パイロット?から選抜して、米国留学という形になるのでしょう
海自の場合は、P-1やU-36Aなどのジェット機を持っているとはいうものの、いきなり戦闘機転換は難しいでしょうから
最初は空自のT-4の練習機課程
あるいは米海軍の操縦訓練課程に留学した後に
米軍のF-35Bの操縦課程に入るなどの方法がとられるかもしれません
いずもと艦載ヘリ
F-35Bは海自、空自のどちらが運用(保有)するのか
F-35Bの保有は空自にとって結構お荷物になる感じです。
予算と人員が増えるのならまだしも、おそらく現状の態勢を崩して、余計な?任務が付け加えられるのですから、あまり気が進まないかもしれません。
一方海自にとって悲願の自前の空母保有に繋がる話ですから、おはちが回ってくれば、喜んで受け入れる?のか
そもそも、海自の航空部隊は世界各国の海軍に比べて異常に対潜航空部隊が充実しているのも、いつかは空母をという思いもあったはずです。
海空のどちらが保有するかによって使い方が違ってくる?
空母に搭載するF-35Bが航空自衛隊が運用(保有)する場合
自衛隊の統合部隊として運用される事になりますが
どうしても航空自衛隊側の都合が優先される可能性が強くなるのでは無いでしょうか
極端に言えば
空母に搭載した艦載機は、日本の国土や自衛隊基地の防空用に使用するのがメインになり、空母は単なる戦闘機離発着のための海上の飛行場として使おうとする傾向が出てくるでしょう。
逆に海自がF-35Bを保有することになれば
主に、海上作戦の為に使う事がメインになり敵艦隊攻撃や、艦隊防空に使われることが多くなるのでしょう。
まとめ
F-35Bの導入は、現時点では観測記事の可能性もあり、小野寺防衛大臣はこれを否定する発言を行っています。
とはいうものの、様々な検討は行っていると、完全否定はせず含みを持った発言も行っています。
今後F-35B導入をめぐっては今年末の防衛大綱の見直しなども含めて検討されていくと思いますが
F-35Bの導入という話は、結局、海自のヘリ搭載型護衛艦の空母化への布石と考えるのが妥当です。
その場合、F-35Bを海空のうちどちらが保有(運用)するのか、
どちらも長短あり、今後の日本の防衛構想にまで影響が出てくる話ですから
海空の既得権なども含めて議論になっていくのでしょう。
いずも空母化、F-35Bは海自、空自どちらが保有するのか、パイロットは
2022.1追記
海自のヘリ空母「いずも」「かが」を改修して空自に所属するF-35Bが離着艦できるようにすることになりました。
現時点では常時搭載は行わず、必要時に離着艦を行い燃料補給を行えるようにするようです。
将来、いずも、かがから作戦運用できるようにするのかどうかは不明です。
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