前回は、韓国経済崩壊の可能性について検討してみました。
今回は在韓米軍撤退、米韓同盟消滅、韓国が大陸よりに移行しつつある点について考えてみたいと思います。
在韓米軍の撤退については最近になって取りざたされていますが、これは何も新しい話では無く2015~6年頃にも、戦時作戦統制権の返還問題とからんで、結構話題になっていました。
それが2017年に入って、北朝鮮が弾道ミサイルの乱射や、核実験の実施などによって消し飛んでしまい、それどころか、米軍による北朝鮮侵攻が話題になるほどでした。
ところが、米国のトランプ大統領は北朝鮮の金正恩労働党委員長と会談を相次いで行い、トランプ大統領の方向性は、北朝鮮との交渉による半島の核放棄の方向に向かいつつ有り
さらに、在韓米軍の撤退や、米韓同盟の解消にまで話題が上るようになっています。
客観的に見て、現状で在韓米軍の撤退や、米韓同盟の解消は、韓国の安全保障にとって、死活的なリスクをはらむ問題のように見えますが
韓国の文政権は、公式には米韓同盟の重要性を主張しつつも、本音の部分で、在韓米軍の撤退や、米韓同盟の解消を望んでいるかのようにすら見えることがあります。
在韓米軍の撤退や米韓同盟の解消などの事態は果たして本当に起きるのでしょうか
もしそうなれば韓国のみならず、日本の安全保障や防衛体制にも大きな影響を与える事になります。
更に前回、検討した韓国経済の崩壊と重なれば、それこそ韓国という国の消滅にも繋がりかねない事態になりかねません
今回は韓国からの米軍の撤退や、米韓同盟の解消の可能性について考えてみたいと思います。
戦時作戦統制権返還問題
戦時作戦統制権とは
現在、韓国軍の戦時作戦統制権は、米軍が司令官、韓国軍が副司令官を務める「米韓連合司令部」が握っており、有事の際は、米軍(在韓米軍司令官)が韓国軍を指揮する事になっています。
自国の軍隊が外国の軍の指揮官の統制を受けるということは、独立国であれば、やはりおかしいと感じるのは自然な感情なのでしょうが
いざ戦時となった時に、韓国軍の司令官が米軍を含めた軍の指揮をしっかり行えるのだろうかという疑問がありますし
逆に、作戦統制権が韓国軍指揮官の元に戻ったとして、米軍が、いざという時に、外国の軍の指揮官の命令で作戦を行うのであろうかという疑問もあります。
戦時統制権の返還は米韓の間で合意済み
意外と知らない人もいますが、米韓の間で戦時統制権の返還は盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(03年〜08年)の時の2007年に既に合意されています。
しかしその後、韓国軍に戦時作戦統制権を返還することは韓米同盟を危うくするという議論が出てくるようになり
さらに保守政権が出来てからは在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲を2020年代まで延期することとされてきました。
文大統領になって戦時作戦統制権の返還が現実に
盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の後継と言っても良い左派政権の文大統領になって、戦時作戦統制権の返還が推進されるようになっています。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、任期が切れる2022年までに「戦時作戦統制権」の返還を受けると公言しており
米韓両国は、作戦統制権返還後の国連軍司令部の地位および役割を議論するための「高官級定例協議体」を開始することで合意しています。
さらに国家安保会議(NSC)常任委員会が8月末には「在韓米軍基地早期返還計画」を決定し、米韓連合司令部の所在地「龍山(ヨンサン)基地」(ソウル)についても、唐突に「移転手続きを年内に開始する」と発表。
文政権の、在韓米軍離れの方針が露呈している例とみられます。
2019.8の米韓合同軍事演習では統制権返還後の指揮系統の確認がおこなわれた
8月の演習は米韓両政府が打ち切りを決めた夏の大規模演習「乙支フリーダムガーディアン」の代替と位置づけられ、期間を縮小し、実働演習は行われず
在韓米軍が持つ戦時作戦統制権の韓国軍移管を見据え、韓国軍の遂行能力を検証する演習も初めて実施されました。
国連司令官が米韓連合司令部を指揮?
私、魚屋太平としては文政権だけではなくトランプ大統領も、在韓米軍の撤収に前向きなのでは無いかと考えているところですが、米軍の方から、少し怪しげな動きも出てきています。
現在、有事には米軍が司令官、韓国軍が副司令官を務める「米韓連合司令部」が米韓軍の指揮を執ることになっており、戦時作戦統制権が韓国に返還されれば、これが逆になる事になります。
大方の見方としては米国はこれを良しとせず、米軍の大半を韓国から撤収するのではないかという観測もでていました。
今年の8月の演習では「戦時作戦統制権」の返還を受けたという状況を想定し、韓国軍が司令官、米軍が副司令官を務める体制で指揮命令系統を確認する「米韓連合指揮所訓練」が実施され
韓国軍にしてみれば、韓国軍大将が、韓国軍と在韓米軍を指揮する予行演習のつもりだったのでしょうが、1978年、米韓連合司令部を創設する際に盛り込まれた「国連司令官が米韓連合司令部を指揮することができる」という一文を米国が持ち出してきました。
どういう事かというと、米軍は、韓国に「戦時作戦統制権」を返還=「米韓連合司令部」の最高指揮官の地位を韓国軍に返還しても、在韓米軍司令官は「国連軍司令官」でもあり、国連軍司令官として米韓連合司令部を指揮する権限を主張したということです。
これでは韓国に戦時作戦統制権が渡っても、今までどおり米軍司令官が全体の指揮を執ることになり
さらにさらに、国連軍司令部には自衛隊員が勤務するという案まで出てきていると言います。
この辺りの事実関係については明確では無く、今後の報道を注視していきたいと思います。
在韓米軍撤退
この章では在韓米軍撤退をめぐる状勢について概観してみたいと思います。
在韓米軍基地
進む在韓米軍基地の返還
在韓米軍司令部は、韓国政府が早期返還を要請した4つの基地を含む15の在韓アメリカ軍基地について、早期に韓国側に返還できると9月18日に発表。
韓国政府は8月30日に国家安全保障会議(NSC)常任委員会の会議で、26の韓国駐留アメリカ軍基地について竜山基地などをはじめ、韓国への返還手続きを年内に始める方針を決めています。
ソウルにある米軍基地の南方移転
ソウルの龍山(ヨンサン)は米国の海外軍事基地として最大規模の基地でしたが
2019年末までに、2万人以上の米国軍人・家族のほぼ全員がソウルの龍山から新たに建設されたハンフリーズ基地に移動することになっています。
平沢(ピョンテク)にあるハンフリーズ基地への移転は、各地に散らばっていた米軍基地を1カ所に統合し、米軍を北朝鮮の砲撃の射程範囲内から遠ざける計画によるものです。
このことは、一般的には、北朝鮮との有事のことを考えて北朝鮮の砲撃の危険性のない平沢まで下がるということですが
昨今の、トランプ大統領の金正恩氏(北朝鮮)に対する態度からして、武力による解決は考えてはいないようですし
米軍基地を統合して、南に下げるということは、いざという時には韓国軍に任せて米軍は最前線に立つ気が無いという見方も出来ると思います。
さらに付け加えれば、この移転に伴い龍山のアメリカンスクールは「閉鎖」されています。
これも有事を想定してという見方もありますが
米朝交渉の状況を見るに、平沢に多くの兵力を長期間おく気がないという解釈も可能です。
韓米連合軍司令部が2021年末までに平沢(ピョンテク)米軍基地(ハンフリーズ基地)に移転
ソウルの龍山(ヨンサン)基地に残っている米軍基地である韓米連合軍司令部が、2021年末までに平沢(ピョンテク)米軍基地(ハンフリーズ基地)に移転することで米韓が合意
これが意味するところは
在韓米軍司令部、米第8軍司令部、在韓国連軍司令部など龍山基地内の核心施設はすでに平沢移転を終えていて
米韓連合司令部だけは戦時作戦統制権が韓国軍に返還されるまで龍山基地に残留させることとなっていたことからして
21年末を概ね連合司令部の移転の時期に決めたということは、戦時作戦統制権返還が行われるそれまでにおこなわれるものと考えられます。
米韓演習
2019年8月の米韓合同の指揮所演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」は在韓米軍が持つ有事の作戦統制権の韓国軍移管を見据え、韓国軍の遂行能力を検証する演習も実施されました。
韓国国防省は、この演習を今後打ち切る方針を明らかにしています。
また、これに先だって、毎年春に行われていた野外機動訓練「フォールイーグル」と指揮所演習「キー・リゾルブ」については、終了させることが米韓の間で合意されています。
来年以降は米韓の間で大規模な演習が行われないものと見られ、現状在韓米陸軍が本国からローテーションで派遣されていることを考えると、有事の際に、有効に動けるのか疑問視されています。
トランプ大統領の発言
トランプ大統領は、米韓合同軍事演習について
「完全な金の無駄遣い」
と言い切っています。
トランプ大統領としては北朝鮮との朝鮮半島の非核化交渉を進展させ、近い将来に朝鮮戦争を正式に終結するための平和条約を結ぼうと考えているのでしょうから、北朝鮮を仮想敵国とした演習は無駄と考えているのでしょう
また、さらには、在韓米軍の縮小や、撤収も視野に入っているからこそ、よほど無駄な演習に見えるのかもしれません
文大統領の発言
文大統領は8月15日の光復節演説で南北経済協力の推進に強い意欲を示し、2045年に統一をめざす構想まで披露しています。
また、南北首脳会談直後の4月30日に、文正仁(ムン・ジョンイン)韓国大統領外交安保特別補佐官が米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿文の中で、
「(北との)平和協定が結ばれた後は、韓半島において在韓米軍駐留を正当化することは難しい」と述べています。
文在寅大統領が、直接在韓米軍の撤退について述べたことはないですが、文大統領の外交ブレーンである文正仁氏がこのように述べているということは
文大統領の頭の中には在韓米軍の撤退ということが既定路線としてインプットされている可能性はあると思います。
米国の警告を無視して、日韓の軍事情報包括保護協定GSOMIAを破棄したのも、1つには反日政策の一環とも取れますが、将来、北朝鮮と一体になれば日韓のGSOMIAは不要であると考えていても不思議ではなく
米韓の軍事同盟をさほど重要視していない文政権の1つの考え方が表れたとも考えられます。
米韓同盟解消
前の項で述べたように、在韓米軍の縮小、撤退の兆しが次第に大きくなってきていて
文政権のこれまでの動きを見ている限り、中国寄りの動きが目立っており
北朝鮮との関係が改善、あるいは南北統一国家樹立への方向に向かうとすれば、在韓米軍の存在や、米韓軍事同盟の存在を邪魔なものと考えている可能性があります。
一方、今後の米軍の前方配備態勢は、朝鮮半島・中国・台湾を含む地域情勢や、同盟国への「公平な負担」を訴えるトランプ 大統領の方針とも連動する形で再度見直される可能性があり、
かってのアチソンラインのように米国の防衛ラインが対馬海峡まで下がり、韓国が大陸側に組み込まれる(米韓同盟解消)という事態も充分考えられます。
アチソンライン
まとめ
表向きには米韓とも、在韓米軍の縮小、撤退には言及していません
とはいうものの、米軍基地の南方移転、戦時作戦統制権の韓国への移管が推進されており、トランプ大統領の発言の節々に、在韓米軍の縮小撤退を臭わせるものがあるばかりでなく、文大統領の目指している方向性からすれば、在韓米軍の縮小、撤退は望ましいものと考えられます。
さらに、中国寄りの動きを見せており、米国も韓国への不信感を募らせているばかりでなく、トランプ大統領の方針からしても、無用な朝鮮半島へのコミットメントは、出来れば解消したいように見受けられ
となれば、今後の米中交渉の進展状況によって、在韓米軍の縮小、撤退の可能性はおおいにあり
そうなった場合、韓国の中国寄りの政策がより強くなる可能性があり、大陸側についた韓国が、米国の防衛ラインから外れる可能性もあるわけで、
それが米韓軍事同盟の消滅に繋がる可能性も考えられない事はありません
前回の記事で、韓国経済崩壊の可能性に言及しました。
そして、今回の在韓米軍撤退や、米韓同盟の消滅が重なり、さらには韓国が、北朝鮮との接近や大陸(中国)よりの政策を取るようになれば、韓国という国が消滅する可能性が出てきます。
次回は今後、韓国が中国よりになっていく可能性について考えてみたいと思います。
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