防衛装備庁と海上自衛隊は、2023年10月17日に世界初の「レールガン」の洋上射撃試験を実施したと発表しました。試験は海上自衛隊の試験艦「あすか」で行われました。
米軍は開発を断念したと言われていますが、自衛隊がレールガンの導入を進める目的は、またその性能や特徴、メリットには何があるのでしょう。
レールガンとは
レールガン(railgun)は、電磁気力(ローレンツ力)によって物体を加速して撃ち出す装置で、電磁投射砲(でんじとうしゃほう)、EML、電磁加速砲とも呼ばれます。
レールガンは、砲身のレールと弾丸に取り付けられた電機子に大量の電流を流し込み、磁場を発生させ、この力によって推進力を与え、弾丸が発射方向に飛び出していきます。
火薬は不要で、従来火砲と比べて弾丸の初速を大幅に増大させることが期待できます。
研究段階では、速度が秒速1700メートル程度の一般的なミサイルに対し、音速の6倍を超える秒速2300メートル近くを達成しており、理論上は低コストでの連射も可能です。
レールガンは、1917年にフランスの発明家 Andre Louis Octave Fauchon-Villepleeによって発案されました。
日本では1980年代から開発が行われており、軍事的目的ではなくJAXAによる宇宙船開発のために研究されてきました。
レールガンには、巨大な発電システムが必要であること、レールの熱処理と摩擦による耐久性といったデメリットがあり、特に艦船に搭載する場合、原子力船かズムウォルト級のような強力な発電装備を持つ船でなければ必要な電流を発生させられなとされてきました。
防衛装備庁公式チャンネル(レールガン:1分37秒)
防衛装備庁が開発しているレールガンの特徴
防衛装備庁と海上自衛隊は2023年10月17日、電磁気力で物体を撃ち出す装置「レールガン」の洋上射撃試験を実施したと発表しています。
艦艇にレールガンを搭載し実施したもので、世界初の試みです。実用化すれば従来の火砲を超える高速度で弾丸を撃ち出すことが可能となるため、今後も早期の実用化を推進するとしています。
防衛装備庁では、目標性能を「弾丸初速2000m/s以上」(一般的な火砲は初速約1750m/s)に設定しており、すでに2297m/sの記録を実績として残しているととのことです。
また、電気エネルギーで加速を行うため弾丸の初速を容易に変えられる点や、弾丸サイズが小さいため迎撃されにくく、探知されにくい点も特徴として挙げられています。
レールガンのメリット
防衛装備庁や海自はなぜレールガンを開発しているのでしょう。そのメリットは?
速度が速く命中率や威力、射程が増大する
弾頭の速度が速いほど目標に命中させるのが簡単になります。
弾頭が目標に到達するまでに一定の時間がかります。この時、高速で移動する物体であれば、到達までにかなり位置が移動していますから、命中させるためには予測した未来位置に弾頭を投射する必要があり、予測した未来位置が離れていれば離れているほど誤差は大きくなります。
弾頭の速力が早ければ早いほど目標に到達するまでの時間が短くなり、目標の移動距離も小さくなることから、それだけ命中させやすくなります。
また弾頭の持つエネルギーは弾頭の速度の2乗に比例しますから、速度が速ければそれだけ破壊力も増します。
加えて初速が早ければ当然、射程距離も伸びることになります。
火薬(薬莢)がいらない
普通の大砲であれば、弾を飛ばすための火薬(薬莢)の部分が必要になります。
ところがレールガンであれば、弾頭の部分だけあれば良いので、同じ倉庫であればより多数の弾(弾頭)を保管できますし、火薬のように爆発や火災を心配する必要が無くなります。
保管スペースや管理の手間が少ない
砲弾であれば火薬に対する配慮が必要ですし、ミサイルについても精密機器がついている上に、燃料となる噴射剤や様々な制御などのための部品がいらないですから、管理の手間暇やスペースを大幅に減らすことが可能です。
弾の価格を安く抑えられる
大きな電力が必要だとは言え、弾頭は一般のミサイルより安価に調達できる場合が多いはずです。
ミサイルより弾が小さい
レールガンであれば砲弾の部分だけが飛んでいくわけですから、ミサイルなどに比べて大幅に弾体が小さく、撃たれた方としては探知が難しく、迎撃も困難になります。
また、ミサイルのようなジャミングを受けることもありません。
海自がレールガン導入を進める目的は
海自がレールガンの導入を進める目的はもちろん防衛上の秘密ですから、憶測するしかないのですが、私的に予想してみたところでは
弾道ミサイル防御
現在の日本の弾道ミサイル防御は、イージス艦とPAC3による2段構えとなっていますが、
北朝鮮は、日本を標的にしている弾道ミサイル(ノドンやスカッドER)を数百発保有していると言われ、中国にしても中距離弾道ミサイルを数百発保有しています。
イージス艦に搭載できる迎撃ミサイルの数には限りがありますし、PAC3は射程の関係でカバーできるエリアは限定的です。
ここで仮に射程200kmのレールガンをBMD(ミサイル防衛)の一角として配備できれば、イージス艦がうち漏らしたミサイル、あるいは不足する迎撃ミサイルの数を補完する武器として使用することが出来ます。
米国はレールガンの開発を断念したという情報もありますが、米国の場合は中距離弾道ミサイルの脅威が日本のようにあるわけでなく200kmという射程距離はやや中途半端な距離なのかもしれません。
極超音速兵器(Hypersonic Weapons)への対応
もう一つは極超音速兵器(Hypersonic Weapons)への対応です。
極超音速兵器(Hypersonic Weapons)とは、音速の5倍から25倍ほどの超高速で長距離を飛行する兵器です。
極超音速飛行に加えて、ある程度の機動性(コースや高度を変化させる)を有することにより、迎撃の困難性が増しています。また、飛行高度が弾道ミサイルより低いことも被探知性を高めています。
これへの対応策としてレールガンの開発を目指しているというものです。
通常の火砲に比べ、レールガンの弾頭は速度が速く、射程も200km程度まで伸ばすことが可能なことから、対極超音速兵器(Hypersonic Weapons)としての有効性が期待されます。
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