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北朝鮮の弾道ミサイルは打ち落とせるの、迎撃システムはどうなっているの

BMD

 

2017年8月29日早朝、北朝鮮のミサイル発射を警告するJアラートで目を覚ました人も多かったのではないかと思います。

 

次第に高まってくる北朝鮮の弾道ミサイルの脅威、我が国の弾道ミサイルの探知システムはどうなっているのか、迎撃システムはどうなっているの。

そして、戦争になって本気で撃ってきた時に北朝鮮の弾道ミサイルは本当に撃ち落とせるのでしょうか。

 

我が国の弾道ミサイル探知はどのような仕組みになっているのか

米軍の早期警戒衛星が北朝鮮の弾道ミサイル発射を探知

最初の探知は米軍の早期警戒衛星

日本は早期警戒衛星を保有していないので最初に北朝鮮の弾道ミサイルの発射を探知するのは米軍の早期警戒衛星になります。

北朝鮮が北朝鮮国内のどこからか弾道ミサイルを発射すると、米軍の早期警戒衛星は、弾道ミサイルから出されている噴射の熱を赤外線カメラで探知します。

 

探知情報は直ちに、北アメリカ航空宇宙防衛司令部:通称ノーラッド(NORAD)に送られ

探知情報はデータリンクを通じて、米軍や自衛隊に送られます。

 

イージス艦やXバンドレーダーによる探知

北朝鮮の弾道ミサイルを、一番最初に探知するのは早期警戒衛星ですが、弾道ミサイルが上昇して、高度が高くなってくると、今度は日本海にいるイージス艦や日本本土に設置してある日米のXバンドレーダーが弾道ミサイルをレーダーで探知します。

 

弾道ミサイルを日米のイージス艦が探知

弾道ミサイル防衛イージス艦(BMD艦)

イージス艦に搭載されているレーダーはSPY-1レーダーで、早期警戒衛星の情報が入ると、レーダー波を狭い1方向(弾道ミサイルが発射された場所)に向けてビームを絞ることで、探知距離は1000km以上になると言われています。

注:地球は丸くレーダー波は直進するので、弾道ミサイルが水平線より高い位置に来ないとレーダーでは探知出来ません。

 

参 考:弾道ミサイル対処が可能なイージス艦

日本

こんごう型

・こんごう、DDG173

・きりしま、DDG174

・みょうこう、DDG175

・ちょうかい、DDG176

あたご型

・あたご、DDG177

・あしがら、DDG178

まや型

・まや、DDG179

・はぐろ、DDG180

 

 

在日米軍第7艦隊(横須賀)

巡洋艦(タイコンデロガ級)

・アンティータム、CG54

・チャンセラーズビル、CG62

・シャイロー、CG67

駆逐艦(アーレイ・バーク級)

・バリー(USS Barry, DDG-52)

・ベンフォールド(USS Benfold, DDG-65)

・ミリアス(USS Milius, DDG-69)

・ヒギンズ(USS Higgins, DDG-76)

・ハワード(USS Howard, DDG-83)

・デューイ(USS Dewey, DDG-105)

・ラルフジョンソン(USS Ralph Johnson, DDG-114)

・ラファエル・ペラルタ(USS Rafael Peralta, DDG-115)

計11隻

 

米海軍イージス艦カーティスウイルバー
カーティスウイルバー

 

Xバンドレーダー(米軍)

現在米軍のXバンドレーダー(AN/TPY-2レーダー)が青森県車力村と京都府の経ヶ崎の2箇所に配備されています。

このレーダーはTHAADに使われているXバンドレーダーと同じものになります。

探知距離は射撃管制モードで500km、捜索モードで1000km以上あると言われています。

探知範囲はフェイスドアレイ方式で左右各60度(前方120度)が捜査範囲になります。

 

米軍Xバンドレーダー
米軍Xバンドレーダー

米軍Xバンドレーダー探知範囲

 

Xバンドレーダー(航空自衛隊)

米軍だけではなく航空自衛隊も自前のXバンドレーダー(J/FPS-5)を配備しています。

通称ガメラレーダー、三菱電機製フェイズド・アレイ・レーダー
探知距離1000km以上

 

現在配備されているのは
・下甑島
・佐渡
・大湊
・余座岳
の4箇所

 

空自ガメラレーダー
空自ガメラレーダー

ガメラレーダーの探知範囲
ガメラレーダーの探知範囲

探知した弾道ミサイルの情報の流れ

北朝鮮が弾道ミサイルを発射したとほぼ同時に米軍の早期警戒衛星がミサイルの噴射を赤外線探知装置で探知すると即座に北アメリカ航空宇宙防衛司令部:通称ノーラッド(NORAD)に衛星通信を通じて送信され

このデータはすかさず

・米太平洋軍
(米太平洋艦隊(米第7艦隊)、太平洋空軍(第5空軍)など)
-米軍Xバンドレーダー
-米軍イージス艦

・自衛隊の弾道ミサイル防衛(BMD)統合任務部隊(横田)

など関係各部に送信されます。

またこれらのデータは

・海自イージス艦
・空自Xバンドレーダー
・空自PAC3部隊

も衛星通信を使ったデータリンクシステムにより情報共有されます。


弾道ミサイルに対する迎撃システムはどのようになっているのか

自衛隊の弾道防衛司令部

自衛隊の行うミサイル防衛作戦は、航空自衛隊の横田基地にある航空総隊司令官が兼務する弾道ミサイル防衛(BMD)統合任務部隊指揮官が一元的に指揮・統制を行います。

横田基地の位置

破壊措置命令による迎撃

早期警戒衛星の探知や

更に日米のXバンドレーダーやイージス艦の探知情報を元に

弾道ミサイルが、日本に飛来し被害が出る恐れがある場合、防衛大臣から自衛隊に対して破壊措置命令が出されることになっていましたが

 

北朝鮮の状況から、いつミサイルが発射されるか分からない状況であるため

2016年8月8日以降、破壊措置命令は常時発令状態となっていて

自衛隊の弾道ミサイル防衛統合任務部隊指揮官(空自航空総隊司令官:横田基地)の判断で、日本に危害が及ぶ恐れのある場合には、イージス艦やPAC3によって迎撃出来るようになっています。

 

注:日本の上空を飛んでいく北朝鮮の弾道ミサイルをなぜ、迎撃しなかったのか疑問思っている人もいるようですが、宇宙空間を単に飛行している物体を撃墜することは、国際法上、撃墜することは出来ませんし、破壊措置命令も、日本に直接影響の無い弾道ミサイルを迎撃すること許可してもいません。

 

イージス艦からのSM-3の発射

海自イージス艦による迎撃

横田にある弾道ミサイル防衛任務部隊の指揮官が

弾道ミサイルが日本の領域に落ちてくる危険性があると判断した場合、日本海にいる海上自衛隊のイージス艦に迎撃命令が出されます。

 

この時、イージス艦は既に弾道ミサイルをレーダーで捉えているはずですから、命令に従ってSM-3迎撃ミサイルを発射します。

注:現在弾道ミサイル対処のため日本海には常時、海上自衛隊のイージス艦が展開しています。

 

SM-3の命中率は実験段階で約90%

射程約1200km 高度 約500km

1発の弾道弾に対して2発の迎撃ミサイル(SM-3)を発射するとされているので、理論上の命中率は99%となります。

 

空自PAC-3
PAC-3(出典:防衛省HP)

空自PAC-3による迎撃

一般的な説明ではイージス艦で撃ち漏らした弾道ミサイルはPAC-3で迎撃することになっていますが

弾道ミサイルに対するPAC-3の射程は20kmしかありません

 

しかもミサイルの射程というのは平面上の20kmではなくお椀をかぶせたようなドーム状のような形をしていて

地図上で20km先だと、実際には地上すれすれの迎撃になり、地図上で20km離れた所での迎撃では、実際には地上に被害が出る可能性があります。

 

現在航空自衛隊が保有しているPAC-3は18個高射部隊(36基)

射程や配備数から考えて、PAC-3で迎撃出来るエリアは日本の極一部出しかなく、実際には自衛隊基地や重要地点などの拠点防空にしか使えないと考えられます。

実戦になった時、北朝鮮の弾道ミサイルは本当に撃ち落とせるのでしょうか

SM-3などはまだ実戦で使われたことはありませんから、実戦で本当に命中するのかどうかを議論しても始まりませんから、取り敢えず実験段階の命中率90%程度を前提に検討してみたいと思います。

 

北朝鮮の弾道ミサイル発射

北朝鮮が日本に弾道ミサイルを撃ってくるのはどのような状況か

まず、北朝鮮が脅しなどでは無く、本格的に日本の弾道ミサイルと撃ってくるとすれば、米国との開戦が確実か、あるいは既に米国による北朝鮮攻撃が開始されている状況だと思われます。

米国が何もしていない段階で、北朝鮮がいきなり日本に攻撃をしてくるということは、確実に北朝鮮の壊滅を意味しますから、まずあり得ないと思います。

 

となれば、想定される状態は

北朝鮮と韓国の間の休戦ライン付近では米韓軍が臨戦態勢で待機しているか、または限定的な陸上侵攻が始まっている。

韓国内の米空軍基地、韓国空軍基地では攻撃態勢が整って、いつでも空爆出来る態勢、あるいは既に始まっている。

 

グアムのアンダーセン空軍基地からは爆撃機がいつでも出撃出来る態勢か既に空爆は始まっている。

日本海や黄海にいる米潜水艦や水上艦艇からはトマホーク巡航ミサイルがいつでも発射出来るか既に攻撃が始まっている。

 

朝鮮半島周辺には6~7個の米空母打撃群が取り囲んでいて、24時間継続して、北朝鮮上空を警戒飛行、あるいは爆撃が出来る状態、あるいは実施中

などの状況になっています。

 

北朝鮮が持っている弾道ミサイルで日本を攻撃出来るミサイルは?

北朝鮮が持っている日本を攻撃出来る弾道ミサイルは、様々な推定がなされていますが、常識的なところとしては

ノドンミサイル:約300発
(ほぼ日本全土を射程に収めている)
TEL:約50基

 

TEL:transporter-erector-launcher(ミサイルの輸送起立発射機)
ミサイルを保管しているところからミサイルを載せて発射場所まで移動して、ミサイルを起立させて発射する装置(移動車)

 

弾道ミサイルとTEL

スカッドミサイル:約600発

そのうち西日本まで届く射程が長い
スカッドER:約100発

TEL:約50基
ただしこのうちスカッドER用の数は不明ですが、数の割合からすると10基程度か?

 

ということで、日本を攻撃出来る北朝鮮が保有している
弾道ミサイルの数は約400発
発射機(TEL)約60基

ということになります。

 

スカッドER射程

ただし、発射機本体の車両は中露からの輸入に頼っていることや、経済制裁を受けていること、北朝鮮の一般的な工業力が低いことなどから、発射機(TEL)の稼働率が高いとは思われず

楽観論は危険ですが、高めに見積もって仮に稼働率60%とすると、同時に使用出来るTELの数は36基程度となります。

 

北朝鮮は軍事優先で力を入れていますからもっとTELの稼働率が高い可能性もありますし、逆に、北朝鮮の現状を想像するともっと稼働率が低い可能性もあります。

 

北朝鮮が日本に向けて同時に発射出来る弾道ミサイルの数は?

北朝鮮にはTELが50基有るから50発同時に発射されたら、弾道ミサイル防御は飽和して迎撃出来ないという意見がありますが現実的では無いと思います。

また、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や中、長距離弾道ミサイルのロフテッド発射なども取りざたされていますが、これらは実験段階であることや(2017.9現在:この記事執筆時)数も少ないことから、実戦で使われる可能性は少ないでしょう。

 

北朝鮮の弾道ミサイルはほとんどが地下トンネルなどに隠されていますから、発射場所までTELで移動して、ミサイルを起立させて発射させるまでにはある程度の時間がかかります(30分~1時間?)

またミサイルの発射前にはミサイル自体の整備なども必要ですから、北朝鮮全土で何時何分何秒にミサイルを発射するとタイミングを合わせて発射するということは極めて難しいと思われます。

またそのような大規模な動きが北朝鮮全土であれば、米軍の偵察衛星や偵察機、無線傍受施設などによって察知されてしまうことも考えられます。

 

そのほかにも米軍などの空爆が始まっていれば、多くの弾道ミサイルやTELは破壊されてしまっている可能性も高いですし、地下トンネルから引き出してきたところを発見されて空爆により破壊されるものも多いでしょう

これらの現実を無視して、全稼働TELのうち8割が指定された時間に発射出来たとして、同時発射弾数は約29発となります。

 

イージス艦こんごう
出典:防衛省HP

 

迎撃出来る弾道ミサイルの数は

専門家などのテレビなどでの発言や各種情報では、イージス艦が同時に迎撃出来る弾道ミサイルの数は2発ということです。

海上自衛隊が保有している弾道ミサイル迎撃が可能なイージス艦は8隻

 

この他に在日米海軍の弾道ミサイル迎撃が可能なイージス艦は現状で11隻

 

合計19隻

 

同時対処可能な弾道ミサイルの数は理論的には38発となり、北朝鮮の飽和攻撃に対処は可能という結論になります。

また、イージス艦に搭載されているSM-3ミサイルは各8発程度(らしい)

18隻×8発=144発

弾道ミサイル1発に対して2発のSM-3を発射するとして合計72発まで対応可能となります。

 

イージス艦からのSM-3の発射

それじゃあ、北朝鮮は全部で400発くらいの弾道ミサイルを持っているから間に合わないんじゃ無いのということも考えられます。

海自の場合はイージス艦に搭載されているSM-3=各艦8発?=全保有数に近いらしい
ですから、それまでよということになりますが

 

米海軍がどの程度予備のミサイルを保有しているか不明ですが、ある程度は期待出来るのと

そもそも北朝鮮の弾道ミサイルは空爆によってかなりの部分が地上で撃破されるであろうことや

開戦となれば、米空母から発進した戦闘爆撃機が常時北朝鮮上空に待機して、ミサイルの発射の兆候(TELに弾道ミサイルを載せて地下トンネルを出て発射場所まで移動)を発見次第、攻撃を加えるような態勢が敷かれるはずですから、

 

保有している弾道ミサイルを全て発射出来る可能性は低く、大部分が地上で撃破される可能性も高いと思われます。

 

なお、PAC-3による迎撃はPAC-3の射程が短く(約20km)

よほど運良くPAC-3が配備されている基地に近い所に弾道ミサイルが飛んでこない限り迎撃は困難なので、今回の見積もりには入れませんでした。

18個高射部隊を適当に配置してみると下図のようなイメージになります。(配置位置に根拠はありません)

PAC-3の射程と配備イメージ

 

ただし、迎撃出来るというのはあくまで机上の計算ですので、実戦場面では様々な錯綜や、予期しないことも考えられ、何発かの弾道ミサイルを撃ち漏らす可能性はあり、その中に核弾頭が含まれる可能性も考えられます。

通常弾頭であれば、搭載されているのはおそらく1t爆弾程度ですので、半径500m程度の中にいる人に死傷者が出る可能性があります。

 

あるいは最悪、首都圏などに核弾頭が落下し爆発すれば、数十万人規模の死傷者が出る可能性があります。

現時点での見積もりでは、北朝鮮は30~60発の核弾頭を保有している可能性があります。ただし、この核爆弾を弾道ミサイルに搭載出来るほど小型化されているかどうかははっきりしていません

 

まとめ

現在の日本の弾道ミサイル防衛システムでは、、米軍の空爆などと組み合わせれば、かなりの確率で北朝鮮の弾道ミサイルをほぼ迎撃出来る態勢にあると言えます。

 

当然机上の計算ですから、現実場面では撃ち漏らしがあることは充分考えられ、通常弾頭であれば、ある程度の被害が出ても日本の国家全体からすれば、致命的な打撃にはなりませんが

万一核弾頭が含まれていた場合は、想像を絶する被害が出る可能性は残されています。

 

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